浅暗い闇の中──────


 五つの影が丸いテーブルを囲んでいた。



 いい加減、このフレーズも疲れたから、間は省略。



 ともかく、碇家キッチンの爺婆親バカ連合軍+ナオコの作戦実行部連絡会議である。


 しかし、テーブルの上には裂きイカ、柿の種、チーズ鱈、ピスタチオ等、ありとあらゆる食い散らかされ
たツマミと、

 床には業務用の5ガロンのビール樽が何樽も転がっている。

 何故かシンジのクラスの担任がその一つを抱えて鼾を描いており、

 その横には、その亭主が文字通り酔いつぶれていた。


 この狂乱の宴の名は、シンジの快気祝いである。


 もう三日間もその宴は続いていた。

 当然ながら業務も滞っているのだが、そんなものそっちのけで歓喜の宴は続いていたのである。


 「議ちょ・・・・・・じゃなかった知事。例の件はどうなりましたか・・・・・・?」

 まだ頬の色も酒気で赤く、頭にはクリスマスパーティもかくやといった三角のラメの入ったカラフルな帽
子が光っているゲンドウ。

 衣装もエメラルドグリーンの紋付という、気が狂ったかのようなカラフルさだ。


 「いい加減に覚えたまえ・・・・・・。私は知事だ。
  諸君らが病院に詰めている間に全てを終わらせたよ・・・・・・・・・。
  私はシンジ君の復活を信じていたのでな・・・・・・・・・」

 言葉は格好良いが、バイザーの代わりに鼻メガネが掛けられており、額には吸盤のダーツがくっ付いてい
る。

 そして何故かタイガーな野球チームの遠征用ユニフォームという、マニアックなものである。


 「それは重畳ですわ」
 「アスカも喜びますでしょうね」

 喜色に溢れる親友コンビ、ユイとキョウコ。

 なぜか二人はセーラー服であった。

 ユイはセーラー服姿で、何故か髪を赤っぽく染めて白いカチューシャでまとめている。

 『ヒロユキちゃん』と口に出したら似合いそうな姿であり、ホントに似ていた。

 キョウコに至っては長い髪をブラウンに染め、三つ編みにしてメガネまでかけた所謂“委員長ルック”だ。

 なんだがアスカに遺伝した胸の大きさも相まって、関西弁が似合いそうな委員長である。

 二人とも、とても似合っているから始末が悪い。


 「レイも満足でしょうね」

 そういうレイカの席には・・・・・・旗本退屈男がいた・・・・・・。

 紫ラメの入ったキンキラキンの紅白のトリでも務めるかのようなド派手な着物に、当然ながら額には天下
御免の向こう傷が付いている。


 「これでマナもカヲルも大満足だろう・・・・・・当然ながら私も大満足だ・・・・・・・・・このだだちゃ豆をザルで食
  えた時のようにな・・・・・・」

 医学の常識を超えているのはどーでもいいらしく、素直にシンジの回復を喜ぶプロフェッサー霧島。

 彼は何故か股間から白鳥の頭が突き出ているチュチュを着て座っている。

 頭がチョンマゲカツラなのは深い意味でもあるのだろうか?

 ちなみに、だだちゃ豆とは枝豆の種で、煮汁すら香ばしく捨てるのを躊躇させるほど美味い代物である。


 「これで・・・・・・マヤの想いも報われようというもの・・・・・・・・・良かったわ・・・・・・・・・」

 血を分けた自分の娘と同等に、娘として接しているマヤを想い、ナオコも喜びに浸りきっていた。

 ただ、格好は覚悟完了でもしているかのような、強化装甲服であったが・・・・・・。



 「これで、我らの補完計画がかなうだろう」

 「そう、それが我らの願い」

 「全ては来る時の為に」


 「「「「「「「我ら、“ビッグ・ファミリー”の為に!!」」」」」」」





 「いいぞいいぞ〜〜。うぃ〜・・・ヒック・・・・・・オェっ・・・・・・」

 足元に転がるミサトからカトちゃんを彷彿とさせるヨッパイ語が出た。

 それを無視した形で場は盛り上がってゆく。





 宴会、四日目に突入であった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。








                             はっぴぃDay’S

                        30・STEP 或いは笑顔いっぱいの海








 「バックロールエントリーっ♪」


 ざぶんっ


 シンジの目の前でアスカが海に入った。


 実は二回目である。


 一回目に予告通りにジャイアント・ストロング・エントリーを行い、すぐに上がって別のを披露とばかりに
バックロール。

 流石にげんなりとする少年・・・・・・・・・と思いきや。


 「あははは・・・・・・スゴイよアスカ」


 喜んでいた・・・・・・。


 「でしょ?! でしょ?!」

 ボンベを咥えずシンジに微笑みかける。

 そしてそれを受けてシンジも笑う。


 待ちに待ってた沖縄でのスキューバクルージング。

 “前”の時代から数えて五年目にしてやっと叶った事である。


 異様に高いテンションの意味は他の連中には解からなかった。

 インストラクターの文句も気にならなかった。


 ひたすら幸せで、楽しかった。


 嬉しくて、堪らなかった。


 特にアスカは誕生日を皆で祝ってくれた後だから喜びもひとしおだった。


 シンジも彼女を祝えて笑顔が止まらなかった。




 班ごとの集りとはいえ、シンジと一緒に潜る澄み切った海。



 眼前に広がる揺らめく美しい光景。



 珊瑚も、



 魚達も、



 海の蒼も、



 全部が祝福してくれているようだった。





 何て幸せなんだろう。



 何て楽しいんだろう。





                *   *   *   *   *   *   *   *   *




 「シンジは・・・・・・楽しんでいるかな・・・・・・」

 「楽しんでますわ。皆と一緒ですもの・・・・・・」

 「だな・・・・・・」

 碇家のキッチンで、相変わらず新聞を読んでいるゲンドウ。

 そんな夫に温かい麦茶を煎れ、落雁と一緒に差し出すユイ。


 新聞をたたみ、一口茶を啜る。

 適度に苦い、温かい麦茶は甘い落雁に結構合っていた。


 「・・・・・・罪・・・滅ぼしではないがな・・・・・・・・・」

 「はい?」

 ゲンドウの顔は何時になくほろ苦かった。

 「“あの”時代・・・・・・私はシンジを傷付けてばかりだった・・・・・・それに気付かず拒絶して・・・・・・そしてまた
  傷付けて・・・・・・」

 「あなた・・・・・・」

 「親としては及第点もやれんな・・・・・・」

 “あの”時代・・・・・・愛妻ユイと再会する為に全人類を巻き込んで、よりにもよって自分の息子シンジを寄
り代にした。

 恐ろしい事に、彼はシンジを苦しめている事に気付いていなかったのだ。

 それだけ彼の世界が閉塞していたという事でもある。

 だが、それで許されるわけではないのだ・・・・・・。

 「あなたはシンジを愛していませんの?」

 「・・・・・・・・・いや・・・・・・そんなことは無い」

 「罪滅ぼしで愛されたら堪りませんわ。

  親はただ、自分の子供を愛するだけ・・・・・・違います?」

 「そう・・・・・・だな・・・・・・」

 「そうですわ。

  まったく・・・・・・あなたはいつもいつも肝心なことを忘れるんですから・・・・・・」

 「・・・・・・・・・スマン」

 だが、責めるユイの眼差しは柔らかだった。

 “今”の彼がシンジ達を愛していることを知っているからだ。

 自分が世界を愛しているように、彼も“今”の世界を愛している。

 そして、その事を自覚している。


 だから夫は“前”で使っていたNERVという組織を創設し、世界の為に働いているのだ。


 「それにしても・・・・・・」

 「はい・・・?」

 「シンジまで“こっち”に来るとはな・・・・・・」

 「あら。アスカちゃんとレイちゃんもでしょ?」

 「うむ・・・・・・」


 ゲンドウは窓から空を眺め、ボンヤリと呟いた。



 「神・・・・・・・・・か・・・・・・・・・・・・・・・・・・存在を信じたくなった・・・・・・・・・」



 ユイはそんな事を呟く夫に笑みがこぼれた。




                 *   *   *   *   *   *   *   *   *




 「ねぇ、あれあれ〜〜!! シンちゃん、マングローブ、まんぐろ〜ぶ〜〜!!」

 只でさえ高いレイのテンションは行き着くトコまで“逝って”しまい手が付けられない。

 遊覧船から身を乗り出して今にも落っこちそうなのをシンジに掴まってぐるぐると見て回っている。

 「なんか柵か牢みたいだね・・・・・・すごいなぁ・・・・・・」

 だけどシンジは疲れた様子も無い。

 焦る様子も無い。

 レイが腕を絡めてて、耳元で叫んでても、耳を痛めるだけで気にならない。

 水底まで澄んで見え、きらめく小魚が泳ぐ様まで眼に入る。

 そんな泥だか砂だか解からない水底に突き刺さる根が新鮮だ。


 絡まるガジュマルにはキムジナーという妖精が棲んでいるそうだが、騒がしさに辟易としているかもしれ
ない。

 インフレで大国が撤退している為、その跡地を公園として自然回復している沖縄。


 温室効果によって些か気温は上がって益々熱帯さを増しており、見るもの聞くものが日本離れして眼にも
新鮮だ。


 レイにしても、こんな熱帯の光景はものめずらしく楽しくて仕方が無い。



 それも、大好きな男の子と一緒に見られるのだ。



 楽しくて、幸せで、嬉しくて、胸がいっぱいで、



 涙が溢れそうで、



 シンジに絡めている腕に力が篭る。



 だけど、シンジは優しい笑みを返すだけ。



 レイの治った筈の心臓が、嬉しさのあまり破裂しそうだった。





                 *   *   *   *   *   *   *   *   *




 「失礼するよ」

 「おお、これは知事・・・・・・ようこそ・・・・・・」

 連絡も無しに寄ったというのに、慇懃に出迎えるゲンドウ。

 彼との付き合いも腐れ縁と言うほど長いのだ。

 「どうぞ・・・・・・粗茶ですが・・・・・・」

 「いや、ありがとう・・・・・・うむ、温かい麦茶もいいものだ」

 ユイの差し出したものは先ほどと同じ温かい麦茶である。


 キールは美味そうにそれを啜る。

 礼節をもって煎れられた茶は、どんな安物でも美味い物なのだ。

 「シンジ君は・・・・・・・・・元気に旅立って行ったのかね・・・・・・?」

 「はい」

 後に音符が付くほど嬉しそうに答えるユイ。

 その笑顔につられてキールの頬も緩む。

 「まぁ、不必要かも知れんが、私の方でもシンジ君にガードを付けさせてもらったよ。

  ガードはいつもの9倍にしておいた。

  シンジ君だけでなく、彼の友達に不埒な人間が近付いていったら、モルグ直行だよ」

 「ご親切、いたみいります・・・・・・」

 丁寧に頭を下げるゲンドウ。

 行き届いたキールの思いやりには感謝が絶える事がない。


 ・・・・・・・・・しかし、モルグとは死体置き場のことである。

 そんなに簡単に直行させていいのだろうか・・・・・・・・・?


 「なぁに・・・・・・私らの行った愚行に比べればこれくらいは・・・・・・な」

 そう言って茶を啜り、話を切る。

 場に沈黙が下りた。


 「・・・・・・・・人は人として解かり合う為には心を先に昇華させる必要がある・・・・・・・・・。

  いや、先に昇華させねばならなかったのだ・・・・・・・・・。

  それを忘れていた以上、どう取り繕っても人類を破滅に導いた愚行にしかならん・・・・・・・・・・・・」


 もう一度茶碗に口をつけるも、既に空になっていた。

 所在無げにテーブルに置かれる。


 「知事・・・・・・いや、“議長”・・・・・・」

 不器用なりに慰めの言葉をかけようとするゲンドウをキールは遮る。

 「碇・・・・・・」

 「は・・・・・・」

 「彼らは幸せになってくれるかな・・・・・・・・・?」

 「もちろんですわ」

 夫より先にユイが答えた。

 少しも揺るがない自信を込めて。


 「だって、笑い合える友達と一緒なんですもの」


 揺るがない思い。

 自信。

 それを理解している母親としての笑顔に、


 「そう・・・・・・だな」


 キールも頬を緩めて同意した。




                 *   *   *   *   *   *   *   *   *




 「ねぇねぇ、シンジくん、アレなんだろ?」

 「え? あれ? ・・・・・・・・・ナナフシだってさ」

 「へぇ・・・・・・大きいものだね。沖縄みたいな南国だと生き物も大きいんだね」


 ナナフシとは木の枝に擬態する昆虫の事で、沖縄にいるのは20p以上もある。

 標本には本当に木の枝が入っているのかと思うほど無骨で大きいナナフシが入っていた。


 マナとカヲルにつれられて植物園に引っ付いている昆虫館を覗いているシンジ。

 流石に掌より大きい蜘蛛や、20cmもあるセミには驚いたりしてた。

 「こんなミンミンゼミいたら気が狂っちゃうわよね。うるさくてさ」

 それ以前に、木にとまってる時点でギョッとする。

 「だよね。ただでさえ夏場はうるさいのに」

 シンジの脳裏にこの巨大ゼミが群れ成してワンワンがなり立てる光景が浮かび、ゲンナリとさせた。


 「大丈夫だよシンジ君。ボクらにはマナがいるじゃないか。

  この子の声のお陰でボクらの耳は慣れてるし、

  仮にうるさく鳴かれたとしても、セミ達はマナが唐揚げにして食べてくれるさ」


 「そうそう・・・・・・・・・って、お兄ちゃん!!!」

 マナが怒って兄を追う。

 カヲルは全力で妹から逃げる。

 そしてそれを眺めてお腹を抱えて笑ってるシンジ。

 マナも追われているカヲルも顔は本当に楽しそうだった。

 シンジとして冗談を言い合い、



 怒られたり、


 逃げたり、


 笑われたり・・・・・・・・・。


 なんて幸せなんだろう。


 笑い合える皆といることが・・・・・・・・・。




                  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 「知事。ご一緒に食事など如何ですかな?」

 「おお、それはありがたい・・・・・・いただきましょう」

 いくら温室効果とはいえ、十二月は十二月。段々と冷えてくる。

 よって温かい湯葉鍋となった・・・・・・。

 弱火で豆乳をコトコトと温めて、膜が張ったら箸でつまんでタレ等につけて食べるのだ。

 のんびりと、ゆっくりと気長に食べる温かくて美味いものである。

 自然と酒も進む。

 「いいものだな・・・・・・こんなにゆっくりとした時間というものも・・・・・・」

 「ええ・・・・・・」

 キールの杯に酌をするゲンドウ。

 京都から取り寄せた月の桂の一品である。


 「人は、人がいるから理解し合い、思い合う事ができる・・・・・・・・・。

  “他人”という対象が無ければできない事・・・・・・・・・。

  こんな簡単な答えすら気付かなんだとはな・・・・・・・・・」


 自虐げに苦笑するゼーレの“元”議長。

 “こっち”の世界では不要の肩書きである。


 「知事・・・・・・キールさん・・・・・・。

  もういいじゃありませんか・・・・・・・・・。

  私達が愚かでも、あの子達には未来があるんですから・・・・・・・・・。

  たとえ“やり直した”世界でも、こっちの世界は間違いなく存在するんです。

  私達やあの子達がこっちへ来たのは偶然かもしれませんけど、私とゲンドウさんはやっぱり夫婦で、あ
  の子は私の息子です。

  あげられなかった愛情は、今、後払いさせてもらっているのですから・・・・・・・・・」





 サードインパクト後、世界が人の手に委ねられた後、

 気が付くと自分とゲンドウ、そしてキールは“こっち”の世界に存在していた。


 時間にしてゲンドウが大学生の時代。

 やはり二人は出会っており、やはり恋人同士になっていた。

 シンジとアスカの様にフラッシュバックに似た記憶の最適化の後、二人は“こっち”に根付いたのである。

 やがてキールと“再会”し、お互いに意見を言い合い、和解し、“こっち”を平和な世界にすべく活動を始
めた。


 そして、ユイはシンジを身ごもり、出産。


 二人にとって間違いなく愛息のシンジ。


 だけど幸せにしてあげられなかったシンジとは違うシンジ・・・・・・・・・。



 だから二人は二人分の愛情を注ぐべく“シンジ”にしたのである。


 まさか、二人のシンジという“シン二”になるとは思っても見なかった事であったが・・・・・・・・・。





                *   *   *   *   *   *   *   *   *




 「ワイの前には行かせへんで!!」

 「くっ・・・・・・やる・・・・・・!!! だけど・・・・・・っ!!」

 遊園地にあるゴーカートのサーキット。

 ここでは熱いバトルが繰り広げられていた・・・・・・。

 コーナーを突き刺すように切り込んでくる黒いカート。

 ペダルを踏み込んで、それをかわすオレンジのカート。

 『トウジ?! なんてコーナリングなの?!』

 『コイツ・・・・・・恐怖心が無いんか?!』

 もはやノリは街道レーサーである。

 トウジはともかく、ヒカリがハンドルを握ると性格が変わるのは意外であった。

 当然ながら外野は盛り上がってトトカルチョが始まる。


 「は〜い、55番21票、04番30票ね〜・・・・・・。

  オッズはヒカリちゃんかぁ・・・・・・意外というかなんというか・・・・・・」


 胴元は2−A担任、葛城“夫婦別姓”ミサト。


 いいのかアンタ?!


 「ヒカリ!! がんばんなさいよ!! アタシのシェイクが懸かってんだからね!!」

 「トウジ〜〜がんばってくれよ〜〜!! オレのヤキソバ〜〜〜!!」


 外野がやんややんやと叫んでいる中、


 『く・・・・・・やるやないかっ』

 『ここでかわす?! 面白いじゃない!!』


 等とトウジとヒカリは不思議なカップル走行を演出しまくる。





 で、結果は・・・・・・・・・。




 「同着よん♪ タイムもコンマ00まで一緒。仲いいわね〜ん♪」

 「「・・・・・・」」

 二人して赤くなるトウジ&ヒカリ。

 「それで結果はどーなんのよ?!」

 「決まってんでしょ? 親の総取りよん♪」


 「うわっ、ずっけ〜〜っ!!」

 「横暴だ横暴!!」

 「金返せ〜〜っ」

 「ヒドイじゃないのっ」

 「オ〜〜ホホホホホホホホホホ!! 賭けに負けたアンタらが悪いのよ〜ん♪」


 「あの・・・・・・ミサトさん・・・・・・」

 おずおずと手を上げるシンジ。

 「ン? なぁに? シンちゃん」

 「僕の予想結果見ましたか・・・・・・?」

 「へ? シンちゃんの?」

 そう言われて予想カードの箱をあさるミサト。

 碇シンジと名があるカードには、



 ちゃっかりと“同着”と書いてあった・・・・・・・・・。




 「うっそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお???????!!!!!!!」




 “酒徒えびちゅ”、あがりでビール購入計画失敗・・・・・・・・・・・・。




 当然の如く皆に奢るシンジ。




 遊園地内は爆笑の渦だった・・・・・・・・・。  





               *   *   *   *   *   *   *   *   *




 「ところで、君達の二人目の話は無いのかね・・・・・・?」

 「な・・・・・・っ!!」

 「まぁ・・・」

 いきなりの切り出しに慌てるゲンドウ。

 ちよっと照れたユイ。

 些か酔った風なキールであるが、結構真面目な顔をしている。

 「何を驚く? 君達はまだ若いし、ユイ君も高齢出産という訳でもないだろう?

  新しい世界で、新しい家族の繋がりというのも良いものではないのか?」

 「ぎ、議長・・・・・・」

 「私は知事だとゆーのに・・・・・・」

 そう言って苦笑するキール。

 彼も楽しそうだった。

 殆ど敵対していたような二人であったが、目的のベクトルは同じであった。

 ただ、求めていた結果が違うだけ・・・・・・・・・。


 得られた結果も・・・・・・・・・二人とも最悪であった事も同じであった・・・・・・・・・。


 今、孫のように接しているシンジ達も、

 家族に最も近い存在である碇夫婦達も、

 彼にとっては絆であった。


 疑う必要のない、

 心から信頼でき、話し合え、笑い合える・・・・・・。


 “前”の自分なら笑うだろう。

 愚直な奴と罵るだろう。


 だが、真の幸せとは、身近に現れるものなのだ。

 身近から外へとじわじわ広がってゆくものなのだ。

 だからこそ、その事を理解しているキールは、今噛み締めているのだ。





 幸せというものを。





                 *   *   *   *   *   *   *   *   *



 「綺麗な海〜〜♪」


 今は海水浴場。

 観光客の為に開かれた沖縄ならではの観光スポットだ。


 ハワイの人工海岸なんかとは訳が違う、


 本物の珊瑚まじりの砂浜の広がる、底まで見える青い海なのだ。


 「マヤ姉、楽しそうだね」

 「うん♪ こんなに楽しいのって初めて〜〜っ♪」

 黒と白が左右に分かれたサパレーツで海に入るマヤ。

 ダークグリーンのトランクスタイプの水着はシンジだ。


 記憶を共用化したシンジは“この世界”のマヤの事を思い出していた。

 彼女はシンジが赤ん坊の時、忙しいユイに代わって親子で面倒を見てくれていたのである。

 当然ながらレイとは面識があったのであるが、シンジ以外がOUT  OF  眼中であった為、スッカリ記憶
に無かったのだ。

 そして、マヤが高校入学と同時に両親が亡くなり、ナオコに引き取られてシンジと会えなくなったのであ
る。

 直後に越して来たのがアスカだ。

 ある意味、シンジと一番付き合いが深い。

 更に、カヲルが連れてきた異世界のマナの魂の欠片さえ持っている。

 そっちの歴史では、シンジの事を一人の男として愛していたようで、心が重なった時、マヤのシンジへの
想いは途轍もなく巨大化していた。

 だからシンジが記憶を失って(現実はちょっと違うが・・・)一番悲しかったのがマヤであった。


 そのシンジが今、マヤの事を“マヤ姉”と呼んでいる。


 最初にそう呼ばれた時、マヤは我を失ってシンジを抱きしめ、キスの嵐を敢行した・・・・・・。

 当然ながらアスカ達にめっさ怒られたのであるが・・・・・・。

 建前上、“シンジ君の病状監視の為の付き添い”となっているのだが、マヤにとって大きくなった大好きな
“シンくん”と初めてのデートのようなもの。

 浮かれまくっても仕方が無いといえる。


 「シンくん、シンくん。私の水着似合ってる?」

 「え? あ、う、うん・・・・・・」

 「ねぇ、こっち向いてよ〜〜」

 しなだれかかる様に後から抱きしめるマヤ。

 けっして大きくは無いが、適度に柔らかい果実がシンジの背中に潰されて、なんともいえない感触を伝え
てくる。

 「わ、わぁっ!!」

 赤くなって振りほどこうとするが、

 「やん!! シンくんやめてっ!! 水着かほどけちゃったの。見えちゃうわ」

 「ええ〜〜?!」

 そう言われて離れる事等出来る訳が無い。


 もっとも、“ファスナー留め”のセパレーツの水着のドコがほどけるかは謎としておく。


 「ねぇ、シンくぅん・・・・・・私、中学の時より大きくなってるでしょ?」

 「え? ああ、あの、その・・・・・・」

 「どうしたの? 私と会えなくなるまでず〜〜っと一緒にお風呂入ってたじゃない。

  私のカラダ全部を見た男の人って、シンくんだけなのよ・・・・・・・・・?」

 「ええ? ぼ、ぼ、僕?!」

 「くぉらぁああっ!! シンジぃ!!」

 「シンちゃん!!」

 「シンジくんっ!!」

 傍から見たらマヤと抱き合ってるフケツな光景。

 当然ながらシンジは嫉妬に狂った乙女達に報復されるのであった・・・・・・・・・。


 それを見てお腹を抱えて笑うマヤ。


 ああ、楽しい・・・・・・。


 シンくんとまた笑い合えるなんて・・・・・・・・・。


 大好きな皆と笑っていられるなんて・・・・・・・・・。



 私って、なんて幸せなんだろう・・・・・・・・・。




               *   *   *   *   *   *   *   *   *



 「ら〜〜くわぁ〜〜らぁ〜〜・・・・・・聞いとるかぁ〜〜? いくわぁりぃ〜〜〜・・・・・・」

 「聞いとりましゅじょぉお、ギチョ〜〜・・・・・・」

 「わしゃあ、チジだっちゅ〜〜に・・・・・・」

 スッカリ出来上がってる二人。

 流石に日本酒の一升瓶を一人5本も開けたら当前だろう。

 呆れて溜息仕切りのユイ。

 追従しているのに酔っていないのは不思議だが・・・・・・。

 「いいくわぁ〜〜? シンジくんわなぁ〜〜・・・・・・」

 「りょ〜〜かいです、ギチョ〜〜・・・・・・にぱ〜せんとのおくりぇもありましぇ〜〜ん」

 「やほ〜い・・・・」

 「ダメだこりゃ・・・・・・」

 前後不覚のヨッパライにただ溜息をつくだけのユイであった・・・・・・。




               *   *   *   *   *   *   *   *   *



 「シンジぃ・・・・・・楽しいね・・・・・・」

 「うん・・・・・・」

 「シンちゃんといっしょ・・・・・・・・・楽しいの・・・・・・」

 「あたしも・・・・・・・・・笑いすぎて死ぬかと思っちゃった・・・・・・・・・」

 「あはは・・・・・・マナははしゃぎ過ぎたよ・・・・・・ボクもそうだったけどね・・・・・・」

 「シンくんや皆と一緒に沖縄・・・・・・・・・幸せだわ・・・・・・・・・」


 砂浜に寝転ぶ六人。


 遊び疲れ、はしゃぎ疲れ、騒ぎ疲れ、


 楽しくて、嬉しくて、幸せで、


 身体は疲労しているのに、心がまだはしゃいでいる。


 こんな日がずっと続いてほしくて、


 皆といられる日々が続いてほしくて、


 夢じゃない証がほしくて、


 六人は手をつなぎ、水着のまま砂浜で寝転んでいたのである。



 「ねぇ、シンジ」

 「ん? 何? アスカ」

 「結局、誰をお嫁さんにしてくれるの?」



 ぎくぅっ!!!



 慌てて身体を起こそうとしたのだが、キッチリ手を繋いでてどうにもならなかった。




 ・・・・・・・・・手は、離す気はないようだ・・・・・・・・・。




 「当然、アタシよね〜〜? 大事なモン、あげたんだし・・・・・・」

 「それは“練習”よ。本番はわたしなの・・・・・・」

 「シンジ君の奥さんはあたしのポジションなの」

 「シンくん・・・・・・約束は・・・・・・?」

 「あうあうあう・・・・・・」


 記憶を共用化し、“この世界”の自分のすべての記憶を取り戻したシンジ。

 そのせいで余計な事もハッキリと思い出してしまった。


 アスカとの初体験はもちろんの事、


 レイの海外療養の引越しのおり、

 『元気になって帰って来れたら・・・・・・シンちゃん・・・・・・わたしをお嫁さんにして・・・・・・』

 という約束も、


 マナ達が引越しする時の、

 『シンジくん・・・・・・また会えたら・・・・・・離ればなれにならないように結婚して・・・・・・・・・』

 という約束も、


 マヤとの、

 『シンくん・・・・・・シンくんが大きくなってもわたしを好きでいてくれたら・・・・・・お嫁さんになってあげる』

 という約束も、


 全て思い出してしまったのだ。

 その事がハッキリ顔に出てしまったが為に、それをネタに遊ばれているのである。


 もっとも、彼女らは本気である。

 本気でこの少年との結婚を考えているのである。


 だからシンジは真面目に相対し、

 だから彼女達はそのシンジの姿勢に喜びを隠せないのだ。


 「シンジぃ〜」

 「シンちゃ〜ん」

 「シンジく〜ん」

 「シンくん・・・・・・」


 「ち、ちょっと待ってよぉ〜〜っ」


 美女美少女四人に絡みつかれ、シンジは世にも幸せな悲鳴を上げるのだった。




 『シンジ君・・・・・・・・・幸せだね。

  本当に楽しくて幸せだよ・・・・・・・・・。

  でもね、この幸せな時間も、関係も、キミがくれたものなんだよ?

  だからボクはお礼を言うよ・・・・・・・・・。

  ありがとう、シンジ君・・・・・・・・・。

  これからも、よろしくね・・・・・・・・・』



 口で言葉にせず、心の中でそう呟くと、

 女性陣に揉みくちゃにされている親友に、カヲルは本物の微笑を投げかけた。



 当然、シンジは気付くことは無かったが・・・・・・・・・・・・。



 少年は苦しげではあったものの、確かに微笑を浮かべていた。



 皆といる幸せを噛み締め、



 皆といられることを感謝して・・・・・・・・・。









 12月の沖縄の海岸。

 気候は初夏のようなこの地に、


 ただ、幸せな笑いだけが木霊していた・・・・・・・・・・・・・・・。
































 「ヲイ・・・・・・・・・オレはどうなった?」

 「どしたの? ケンちゃん」

 「トウジですらちょいと出られたのに、なんでオレは枠外なんだ?」

 「いいじゃ〜ん。だって、これからあたしとの肉欲情欲にまみれたグチャグチャな×××シーンに入るん
  だからん♪」

 「このバカ!! そんなシーン入れられる訳ねーだろ!!!! “こっち”は成人コーナーじゃねーんだ
  ぞ?!」

 「やってみなきゃわかんないじゃ〜ん」

 「え? あ、コラッ!!! や、やめ・・・・・・・・・」

 「ぐふふふふふ・・・・・・・・・攻めんのもいいものよ〜〜ん♪ それじゃあ、本番・・・・・・」





 『ブブーーーーーーーッ!!!!(規制に付きカット)』





 「あれ?」

 「ホレ見ろ!!! ううう・・・・・・ヤられ損だぁ・・・・・・・・・オレは汚れてしまった・・・・・・・・・」


 まぁ、“なんとなく”幸せだからいいんじゃない? ケンスケくん。


 「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


作者"片山 十三"様へのメール/小説の感想はこちら。
boh3@mwc.biglobe.ne.jp

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